スピーカー:柏野 大地 (国立天文台) タイトル:JWSTで迫る宇宙再電離の現場 アブストラクト: 本セミナーでは、宇宙再電離の概要と、我々が行っているJWST EIGERプロジェクトの 結果について紹介する。 ビッグバンから数億年後、宇宙で最初の星や銀河が誕生したと考えられている。それ 以前の光を放つ天体が存在しなかった「暗黒時代」では、宇宙空間を満たす水素ガス は中性、つまり原子の状態で存在した。しかし、現在の宇宙で銀河と銀河の間に存在 するガス(銀河間ガス)はすべて電離している。このことから、宇宙を満たす全ての 水素ガスが電離される現象が、宇宙の歴史のどこかで起こったと考えられる。これを 「宇宙再電離」と呼ぶ。銀河間ガスの状態を過去に遡って観測することで、宇宙再電 離はビッグバン後およそ10億年でほぼ完了していたことが判明している。しかし、そ の過程の詳細、電離源の正体や、空間・時間的な進行の様子については多くの不明瞭 な部分が残されており、これらの解明は現代宇宙物理学の重要な目標である。 JWSTの打ち上げ成功により、初期宇宙における銀河形成や進化、宇宙再電離の観測的 研究は新たな局面に入った。我々はJWSTを用いて、EIGERと名付けた銀河サーベイを 行っている。このプロジェクトでは、近赤外線カメラ(NIRCam)を使用し、赤方偏移6 以上の明るいクエーサーが存在する領域で銀河サーベイを行う。クエーサー領域を対 象とする理由は、クエーサースペクトルを調べることで、我々観測者とクエーサーの 間に存在する銀河間ガスの電離状態を距離(赤方偏移)の関数として知ることができ るからだ。我々はこの利点を生かし、銀河の空間分布と再電離時代の銀河間ガスの電 離状態との関連性を探ることにある。これにより、宇宙再電離における銀河の役割を 明らかにすることができる。 EIGERでは、計画されていた6個のクエーサー領域の観測が完結し、z=5.3–7.0の範囲 で約900の[OIII]輝線を放射する星形成銀河が同定された。これらの銀河の分布とク エーサーのスペクトルを分析することで、特に赤方偏移z>5.7において銀河の周囲で、 銀河間ガスが平均よりも強く電離されていることが確認された。これは一般的な星形 成銀河が電離源であることを強く示しており、また高密度領域から電離領域が広がる inside-out シナリオを決定づける画期的な成果である。